はじめに
授業書のねらいとねがい
竹田美紀子

 仮説実験授業の授業書には授業書それぞれのねらいがあります。それぞれの授業書に関する科学的な概念や法則を獲得するということがねらいであって,そのねらいが達成できるように授業します。
が,それぞれの授業書の具体的なねらいはそうであっても,そういう具体的なことを超えてどの授業書にも通じるねらいというか,願いというか,そんなものも仮説実験授業にはあると思います。

 私は仮説実験授業に出会う前から迷信や超自然現象が大嫌いでした。だから,その昔『科学的とはどういうことか』(板倉聖宣著・仮説社)の本が出たときの「あなたは科学的とはどういうことだと思いますか?」のアンケートにはすかさず「迷信や超能力を信じないこと」と答えました。私にとって仮説実験授業をやるときのすべての授業書を通じての願いはあんまり声を大にして言いはしないけど「迷信や超自然現象を信じない人間になること」であるのです。これは私が個人的に思っていることだけど,仮説実験授業の大きなねらいが「だまされない人間」であることを考えると,そんなにおかしな願いではないと自分では思っています。迷信や超能力にだまされないで欲しいというのですから。
 そんな私にとってこの〈光と虫めがね〉という授業書はその心密かなねらいが密かではなく割と分かりやすい形で出てくる授業書であると思っています。「この目でしかと見た」ということがいかにあてにならなくて,人間の目というのは如何にだまされやすいものであるかということがたくさん出てくるからです。だから,私はこの授業書をするときにはほかの授業書よりも「だまされる」とか「だまされない」ということを意識することが多いです。
 とは言うものの「〈光と虫めがね〉の授業書のねらいは?」と聞かれたら,私は「だまされない人間」とはあんまり答えません。やっぱり「ものが見えるとはどういうことかを感動的に学ぶ」と答えちゃいます。やっぱり,それがまず第一番のねらいであると思うからです。それを感動的に学んでこその「だまされない人間」であるとも思うからです。
だから,この授業ノートにも特に「だまされない」ことを意識した授業運営を書いたりすることはしませんでした。いや,書けませんでした。
 「願い」があるので,特に第4部のあたりではついつい言っていることなどもあるのですが,授業運営として「ここではこういうことをいったほうがいい」とは,ちょっと書けなかったのです。

 実はこの私の願いそのものも,はじめは書く予定ではありませんでした。というのは,「この授業書のねらいは?」と探してみると,授業書の最初のページに「この授業書のねらいは,「明るいところにあるものは(太陽や電球やローソクと同じように)光を出しているのだ」ということに気づかせることにあります。それとともに,虫めがねや凹面鏡のふしぎな性質に親しませることにあります」とあります。これは「ものが見えるとはどういうことか」とはつながっているけれど,願いのほうにはあんまりつながっていません。これが授業書のねらいであるとすれば,私の願いはやっぱりそっと私の心の中・・・・のはずでした。
 ところが,授業書の第4部が発表されたときの文章を見てみると(第1〜3部と第4部は別々に,第4部は後で発表されたのです)〈この授業書の終局的なねらいは何かといえば,それはこういえるでしょう。この授業を受けた子供たちが「光の性質をうまく使うと,いろいろふしぎなことがおきるのだな」「これでいろいろおもしろいことができそうだな」「そういうトリックにごまかされないようにしないといけないな」ということをつくづく感ずるようになればいいということです。そうなればこの授業書の最大のねらいは達成されたことになると思うのです〉とあるではありませんか。これは私の願いにぴったり重なるものです。やっぱりこういうことをねらいとしていいのだ〜〜!と,こんな文章を書くことになりました。

 最後になりましたが,〈光と虫めがね〉の授業ノートはもう2冊も出ているので,「今更私が・・・・」とも思ったのですが,私なりに伝えたいこともいくつかあると思ったので書きました。また,その際には板倉先生が最初に授業書を発表されたときの解説が欠かせないと思ったので,それを使わせていただきました。コピーを貼ることにはちょっとためらいもあったのですが,何よりもこれが基本だと思ったのでそうさせていただきました。お許しください。
また「私が伝えたいと思ったこと」の中にはほかの人から学んだこともたくさんあります。教えてくれた人の名前の判っているものについては授業ノートに書かせていただきましたが,西川浩司さんから学んだことに関しては,具体的なこと以外にもとてもたくさんありすぎるほどあります。
 もしも,私が単独に思いついたことがあったとしても,西川さんから学んだことがそれを思いつくための土台になっていると思います。なので,西川さんに学んだことについてはいちいちそのたびに書くことができませんでした。
でも,私は,この授業ノートだけでなくすべての授業ノートの基本に西川さんから学んだことがあると思っています。
ありがとうございました。         2003.10.12