あ と が き                                     竹田美紀子

● 昨年度の仮説
 昨年(2001年)の2月18日。私は自分のHPの「私の近況」の欄にこんなことを書いています。

昨日・今日は、豊田であった西川さんの会に行きました。昨日は講演・今日は講座でしたが、とてもよかったです。講演は多分主催者である今井さんが起すんじゃないかと思うけど、久しぶりに仮説実験授業及びその運営法の基礎の話をしっかり聞いた気がしました。
 講座は<電流と磁石>。前にもここに書いたけど、私,自分のやった<電流と磁石>の授業に納得できていなかったんですよね。去年も、今年も。・・・・でも,今日のこの講座を受けるまでは、全く展望が開けていなかった。「ヨシ!来年はこうやってみよう!」と思えることがなかったんですよね。「だから、この講座に参加した」・・・・って言ってもいいと思うんだけど,予想していた以上の収穫のあった講座でした。感想にも「展望が開けた」って書いたんだけど、思わず西川さんの所に、その感想を持っていって「自分の授業に納得していなかったんだけど・・・・・」と感想文を読み上げるように話をしてしまった私です。
 ここで「そうだ!」と思ったこと、つまり、私の予想,それがあたっているかどうかは来年の実践を待たないといけないけど(多分来年もやれると思うけどな)展望が開けたように思えたことはとっても嬉しいです。

 続けて、2月20日にはこんなことを書いています。

掲示板に林君から質問のあったことについて書きます。(まだ、資料としてまとめるほどのことではありませんので)
 林君の質問とは、私が2月18日に書いた<電流と磁石>についての展望のことです。「具体的にどんな展望が開けたの?」ということなんですが、でも、本当に私,そこで展望が開けたと思ったことが、本当に有効なことであるのか自信がありません。だから,それにしたがって授業してみて,もしも「これはいいぞ!」という感じだったら、発表しようと思っていたのですが・・・・・でも,もしかして、これからやろうと思っている人に少しは参考になることもあるかもしれないので、思い切って書いてみようと思います。でも、本当にこれは仮説に過ぎませんので、気をつけて聞いて下さい。

 あの講座で、私の横には今井さんがいました。今井さんはこの授業書をやったことがなく、答えも知らないので、とても純粋にいろいろ予想してくれました。そして、分からなさ、間違える理由についてもとてもよく答えてくれました。それで分かったこともたくさんあるのですが、右ねじの法則って,ちっちゃい磁石を使ったり,鉄粉模様を見せたりして磁場の様子を見せても,それはそれで理解できるのですが、いざ、方位針がどう動くかってことになると、「それはまた別の問題」という感じで、磁場についての矢印は描けても、方位針の向く方向はすっきり予想できないって感じでした。

 そんな今井さんに、西川さんは、電線に磁場の矢印を書いた透明板をはめて、磁場の矢印のついた電線を方位針に近づける,という形で実験してくれました。それをみて,「なるほど、本当にあの矢印の向きに方位針が動くのだ」ということ、そして、「どこの矢印を見ればいいのか」ってことが分かってきたように思えました。そして,右ねじの法則を教えた段階で電線の周りの磁場について分かってもらおうとなど思わず、こういう問題をやりながら、磁場のイメージを高めていけばいいのだってことを思いました。

 そのために、磁場の矢印を書いた透明板を電線にはめて、その電線で実験するというのはとても有効なことであるように思いました。・・・ということは、実験はOHPでやってはだめだということです。今年の中2の子達は特に前に出てくることをためらう子達であったため、私は、迷いつつも、OHPに写して実験するという方法をとりました。でも,OHPでは、方位針の向く方向は分かるけど、それによって磁場のイメージを高めるという点では無力です。だから、今は、OHPは使わない方がいいのではないかと思っています。でも,「前に来て!」って頼んでもなかなか来てくれない子達、そのうちに見えなくても「見えます!」って言い出す子達には、どうしたらいいか。1つは、方位針と電線を持っていってあちこちで実験することですが,もしかして、すごくでっかい方位針ができたら、それで実験すると良いわけです。でっかい方位針、もしかしたら、電気パンに使うステンレス板を切って色をつけて磁化させたら出来るかもしれません。でも,出来ないかもしれません。来年私は、でっかい方位針を作ることを試みることから始めてみようと思っています。
 ってこんな感じです。さあ、これは有効なことでしょうか?どうでしょうか?来年が楽しみです。〔予想は外れるかもしれないけど、でも楽しみです〕

2/21追記     
  右ねじの法則を書き表したものを、方位針の真上ではなく、方位針のN極の真上において考える・・・・っていうことも、もしかしたらポイントの1つかもしれません。

 この仮説を実験した結果をまとめたのが、この授業ノートです。

● <電流と磁石>と私
 <電流と磁石>という授業書に対して、私は長い間あまり魅力を感じることがありませんでした。授業書の中身のすべてが知っていることばかりだったというわけではないけれど、それほど「世界観が変わる」とか「今まで分からなかったことが分かった」とかいうほどのことを感じることができなかったからです。
 でも、私自身には「自分は場というものが分かっていない」「場が分かりたい」という思いはありました。そして「<電流と磁石>をやったら、場が分かった〜〜!!」と思えるかと期待してやったのに、そのときはそうは思えなかったということがあったのです。そのころの私の授業書のとらえ方に問題があったのかもしれません。
 当時の私は漠然とではありましたが、「右ねじの法則こそがこの授業書のねらいなんだ」みたいな思いがありました。だから、「右ねじの法則が使いこなせなかったら、この授業書のねらいが達成できていないことになるのだ」みたいな思い込みもあったような気がします。そして、そう思いつつ同時に「右ねじの法則なんて知ったって別にどうってことないじゃない!適用範囲が大きいわけでもないし、こんな法則知らなくてもいいんじゃないの?」という思いもありました。授業書でなくこの分野の授業を受けた私はこの授業書に出てくる問題ができる程度には右ねじの法則が使えるようになっていたけど、それを特にすばらしいことであるとは思えなかったからです。

 もしかしたらこの授業書のねらいは右ねじの法則を使えるようになることではないかもしれない。右ねじの法則というのは、電流の周りの磁場の存在そのものと、その向きの両方を表している法則ですから、そんな風に言い切ってしまうのは強引過ぎるかもしれないけど、ねらいは磁場の存在そのものであって、その向きなんてどっちでもいいんじゃないか・・・・とそんな風に思うようになったのは3年位前のことでした。  出発点は磁場のイメージはできているような気がするのに、もっと馬鹿馬鹿しいことで混乱している生徒たちの様子でした。
が、「そうかもしれない」と思うことと、「そうなんだ」と割り切るのには違いがあります。昨年度だって、ほとんど「右だって左だってどうでもいいんじゃないか」と思いつつ授業したのですが、しかし、すっきりしないものが残ったままでした。自分自身で満足の行くような授業しかできないまま「右ねじの法則なんて〜〜〜」って言っていても、それは負け惜しみみたいな感じになってしまうせいかもしれません。すっかり「ねらいは右ねじの法則じゃない!」と割り切ることができたから、満足の行く授業ができたのか、それとも満足のいく授業ができたから、割り切ることができるようになったのか、どちらかはあんまりよく分からないのですが、今年は本当にすっかり割り切ることができ、そして納得の行く授業ができるようになりました。でも、そこにはもうひとつ、「磁場によって広がる世界」の存在があったように思います。

 <電流と磁石>には、幻の第3部があります。第3部は「電磁誘導」というものを扱うということは早くから言われているのに、その後30年たっても未完のままになっているものです。
でも、中学校の教科書には「電磁誘導」というのは出てくるものですから、<電流と磁石>がすんだあと、あっという間の教科書授業で取り扱うことになりました。3年前のことでした。でも、私も仮説教師の端くれ、教科書を取り扱うと入っても、仮説風にちょっと問題を出して・・・・とやったのです。

 ちょっと「どうかな?」と思ってくれればいい・・・・くらいで出したその問題。結構予想が分かれたんですよね。そして、結果に対しても「もしかしたら感動している?」なんて感じの反応だったのです。同時に、その実験自身をやったり、予備実験をしたりしながら、私の中でも、純粋な中身そのものについての発見がありました。「もしかして、これが・・・?」「もしかして、これが・・・・の原理」?。でも、そんなことを思いつつも、一昨年度も昨年度もそのことをしっかり確かめてみようとは思いませんでした。自信がなかったこともあったと思います。
でも、今年度、授業ノートを作ろうと決心したのをきっかけに、いろいろちゃんと調べ始めました。そうすると、なんか私の思っていたのが間違ってはいないような感触。さらに、そういうことに思いをめぐらしていると、今まで以上に空想がふくらんでいくのです。思い切って息子に聞いてみると、ほとんどのことが「そうだよ」という返事ではありませんか。

 そう聞いて改めて見つめなおしてみると、それは、「そうか〜〜。磁場ってそういうものだったのか。電流ができると磁場ができるって、そんなにすごいことだったのか」と思えることでした。
そう思うとますます、どっち向きだっていいじゃない。右ねじだって左ねじだってどうだっていい、問題は磁場のイメージ、電流を流すと磁場ができるというそのことなんだ・・・・と思えます。そして、そういう観点で授業してみると、同じ授業書をやっても「場」というものが今まで以上に見えてくるような気もしてきました。

 昨年度の仮説に、この思いをプラスしてできたのが、この授業ノートです。

 製本ができたら、真っ先に西川さんと今井さんに送ろうと思います。そして、尼崎の講座をこの<電流と磁石>で行うことを快く承知してくださった向井さんにも。尼崎の会があったからこそできたこの授業ノートでした。一人でも二人でも、お役に立てることができたら嬉しいです。
                      2002.3.14