まえがき
              
                   竹田かずき
 この本は長岡清さん(1960〜2001年)の『たのしい授業』における著作を集めたものです。
 長岡清さんは東京都の高校教師で,主に世界史などを教えていました。仮説実験授業研究会の会員でもありました。自他ともに「グラフ長岡」と言われ,グラフを使った研究に情熱を注いでいたそうです。『たのしい授業』に掲載された論文は,1985年から亡くなった後も含め,100本ほどあります。多い時には同じ号に3本の掲載があるなど,その精力的な研究姿勢を伺い知ることができます。しかし,2001年7月に仮説実験授業研究会夏の合宿研究会(in三重・鳥羽)の最中に急病により急逝されました。41歳でした(長岡さんの詳しい経歴については,『たのしい授業』NO.243に掲載された「長岡清年図」を裏表紙に載せましたので,そちらをご覧下さい)。
 そのすぐ後から「長岡さんの仕事をまとめよう」という話が出ていたそうです。そして長岡さんの著書としては2006年に『社会に法則はあるか』(板倉聖宣との共著),2010年に『入門・日本国憲法と三権分立』(板倉聖宣監修,竹田かずきとの共著)が仮説社から出版されました。しかし,そこに載っている論文は,長岡さんの仕事のごく一部です。先ほども書いた通り,長岡さんは1985年ごろから切れ目なく『たのしい授業』などに論文を寄せていたため,まだ本に収録されていない論文がたくさんありました。そこで,長岡さんが亡くなられて10年となる今年(2011年)に「長岡さんの仕事をガリ本をまとめよう」ということになったのです。

 このようなことを書いている私(竹田)ですが,実は長岡さんとほとんど面識がありません。私は長岡さんが亡くなられた後の2004年ごろから本格的に仮説実験授業研究会に関わるようになったので,ちょうどすれ違うような時期だったのです。しかし,研究会の折々に長岡さんのことを聞く機会がありました。仮説社で資料を読んでいると「長岡さんもよく仮説社に来て資料を読んでくれたんだよね」と聞き,グラフを描いていると「長岡さんは〈グラフ長岡〉といわれるくらいグラフをたくさん描いていたんだよ。統計の使い方などもっと見習うといい」と言われ,なにか研究を始めようとすると「そのテーマは長岡さんがやっていたよ」と聞き,〈いつも,一歩(というよりは100歩くらい?)先に長岡さんがいる〉と思う具合でした。また,『たのしい授業』のバックナンバーを読んでいるとしばしば長岡さんの論文にあたり,その度に「面白いなー,視野が開けるなー!」と感激していました。しかしその一方で「でも,わざわざバックナンバーをあたらないと気づけなかったなあ。もしかしたら今も知らない人がいるかもしれない。それはもったいないなあ」とも思っていました。そこで,ガリ本を作るという話があったとき,「ぜひ編集をやらせてほしい。長岡さんの仕事を掘り起こし,その仕事を他の人たちにも伝えたい」と編集者に立候補したのです。

  しかし,本格的に編集を初めてすぐ「これは大変だ」ということに気づきました。長岡さんの論文をリスト化し,ページ数を数えてみると,ゆうに400ページを超えるのです。これでは1冊に収まりきりません。「2冊以上に分ける」ということも検討したのですが,無理矢理に全部入れるのではなく,「これまで単行本になったものを除き,その中で〈とくに〉というものを選んでまとめる」ということにしました。その方が本にまとめる上での問題意識が鮮明にもなるだろうとも思ったためです。ただ「何を残し,何を収めるのか」というのはなかなか大変な作業でした。「なぜあの論文が入っていないのだろう」と思う人もいるかもしれませんが,ご容赦ください。また「板倉聖宣さんとの共著がいくつもあり,板倉さんが主体のものもいくつかある」と思われる方もいるかもしれません。確かにその通りです。そのようなものを入れるかどうかも迷ったのですが,「板倉さんとともに研究をしたことも,長岡さんの中で大きかったのではないか。それに,板倉さんとした研究について,数年後に単独でその続編を書いていることもある」ということを考え,とくに分け隔てなく入れることにしました。板倉さんとの共著の他,「平野孝典さんとの共著」もあります。共著については論文の冒頭に記してあります。
 また,私はとくに「長岡さんの残した仕事の中でも,〈社会の科学,グラフに関する基礎的な研究〉を残したい」と考え,編集しました。そのため今回は「高校教諭・長岡清」という立場のものは入っていません。しかし,長岡さんは研究者としてだけでなく「新学期,子どもたちや大人たちと出会うとき」(1994年4月号,NO.139)や「ぼくにもできる合唱祭指導法」(1991年5月号,NO.103)など,一教師としての論文も書いています。その他,巻末には論文一覧も載せましたので,合わせてご覧ください。

 長岡さんの仕事はなにも『たのしい授業』に載ったものだけではありません。未掲載の仕事もありますし,小峰書店のグラフの本を執筆したり,『毎日小学生新聞』に「なるほど日本史」という連載もされていました。しかし,こちらもページの都合上「とりあえず『たのしい授業』に載ったものだけ」と制限してしまいました。今後も機会をみつけ,とくに〈未掲載の仕事〉などを掘り起こしたいと思っております。
 また,長岡さんの仕事は,古くは1980年代のものもあります。グラフの中で「このまま掲載するとイメージを誤ってしまいかねない」というものは,最近のデータを増補するなどしました。増補していないものでも「この論文がいつの時代に書かれたものか」ということが分らないと,いささか混乱が起こることもあると考えました。論文の最初のページに掲載年を載せておきましたので,合わせて参照して下さい(なお,長岡さんのグラフは,『たのしい授業』裏表紙のカラーページに掲載されたものも多くありましたが,今回収録するにあたりトレースし,モノクロに変更させていただきました。モノクロで表現する際,細かく変更した点もあります)。
 欄外には,「長岡さんの書いたはみだしたの」も掲載しました。こちらも文ごとに掲載号記しました。はみだしたのに垣間見える長岡さんの人柄も合わせてお読みいただければ幸いです。

 最後になりましたが,長岡さんの奥様・長岡仁美さんと板倉さんを始めとした共著者・編集者の方,そして仮説社には,これらの論文の掲載,編集を許可いただき,大変感謝しております。とくに長岡仁美さんにはあとがきも書いていただきました。また,仮説社の増井淳さんにはガリ本編集にあたりとくにたくさんのご助言いただきました。その他,再三にわたり叱咤激励いただいた平野孝典さん・川崎浩さん,このような機会を与えて下さった重弘忠晴さん,また私の細かな悩みにつきあってくれた母・竹田美紀子にもこの場を借りてお礼申し上げます。                                                             (2011.9.4)