まえがき
竹田かずき
「グラフ」と聞いて,あなたはどんなことを感じるでしょうか。わくわくする? それとも「げ〜っ」となる? 私は,数学が苦手でした。計算なんてしたくない。統計なんて数字がいっぱいでフリーズ。そんな学生でした。もちろん,学校を卒業したって変わりません。以前の私は,グラフに対しても,似た印象を持っていました。「グラフ? ああ,なんか楽しそうに描いてる人がいるね。でもグラフも数字も,どちらかと言えば苦手だな」と思っていました。 けれど,この1年で,私はグラフがとても大好きになってしまいました。それは〈グラフは,数字があって難しいもの〉でなく,むしろ〈グラフならば,数字を解読せずとも,直観的に分かるもの〉だと思うようになったからです。そう,〈グラフは,数字の先にあるもの〉でなく,〈数字と「数字が嫌いな私」を,橋渡ししてくれるもの〉だと思えたのです。 また,私は,グラフを意識的に描くようになって「何かあったらグラフに描いてみると,今までに見えなかったものが見えるかもしれない」と思うようになりました。これは,意識改革と言っていいほどの出来事でした。描くに至らなくとも,〈自分の研究手段〉が1つ増えるだけで,大きく世界が広がるように感じられたのです。グラフは発想法の1つなのかもしれません。 ※ ※ ※ そうやってグラフにハマり,色々描いていると,〈東日本たのしい授業フェスティバル(2009)〉の実行委員の方や,〈川崎 たのしい授業体験講座(2009)〉の実行委員の方から「グラフ講座をやりませんか」と声をかけていただけました。グラフにハマっている私にとって,こんなに嬉しいことはありません。その講座で何ができるか,まだ模索中ですが,しかし,もしできることならば,「グラフってたのしいな。見るだけでも,描いてみても,たのしいな」と,そんな風に思う人が増えたら嬉しい……そう思っています。そしてそのためには,「講座の時間だけでは限界があるなあ」と思い,このガリ本を作ることにしました。 このガリ本には,私自身が「グラフって楽しいな」と思うようになった資料の他,板倉先生などの「グラフ論」なども入れました。それは,私自身の1年間の歩みでもあります。「グラフって楽しいな!」と思うようになっても,「どう描けばいいのか」「なんでもグラフならいいのか」と悩むときもありました。そこで,仮説社に訪れては,「グラフ」と名のつく資料を読むようになりました。その中で,一番ワクワクしたのが第3章「グラフ論」にあげたものなのです。 私は「グラフは,グラフィックだ」と言い,今も「それでいい」と思っています。しかし,その反面「グラフの哲学」を学ぶことも,大いにグラフを楽しむ要因となりました。「論」などというと固いイメージに受け止められるかもしれません。また,中にはグラフを伴わない資料もあります。しかし,ここに取り上げた資料は,グラフを見たり描いたりする際に,とても役立つものではないかと思っております。 本の構成としては,まず,「グラフの楽しさを知って欲しい!」と,〈自分自身がグラフにハマりつつあったときの資料〉を載せることにしました。そして,板倉先生などのグラフ論は,後の方に収録しました。これは,資料の重要性ではなく,「〈はじめてグラフに触れた人〉にとって,どうすれば入りやすいかなあ」と考えた結果です。ですから,(こんなことは言わずもがなでありますが,)本をお読みの方それぞれ,自分の興味関心に合わせ,読みたいところから読んでいただければ幸いです。 ※ 資料の中には,20年以上前のものもあります。その中のグラフも,当然20年以上前のデータです。時間が許す限り,新しいグラフを描きたしましたが,本文のグラフはその当時のまま使用致しました。現在のグラフではなく,資料が書かれたときのグラフであることを,ご注意ください。新しいグラフを描いたものは,その記事の次に追加しています。合わせてご覧下さい。 2009年2月23日 |
も く じ
1章 グラフはたのしい? なぜたのしい? ・グラフを描いて,見えてきたこと …… 竹田かずき ・どんな本が発行されているか …… 竹田かずき グラフのたのしさって? 見えないものが見えてきた! 2章 グラフ入門 ・いいグラフ悪いグラフ …… 井藤伸比古 グラフの中には,間違ったイメージにつながるものも!? ・いま描いたらどうなる? 日本の国債残高の〈未来〉 …… 竹田かずき ・量率グラフの世界 …… 松崎重広 量と比率を同時に見られるグラフ〈量率グラフ〉。手元のグラフを描き直してみると,隠れていた姿が明らかになる! ・いま描いたらどうなる? 量率グラフで見る日本の20年後 …… 竹田かずき 3章 グラフ論 ・グラフで見る世界 『たの授』第1回グラフで見る世界 …… 板倉聖宣 ・板倉式発想法の基礎 原子論的な思考をすすめるためのグラフ作成 …… 板倉聖宣 ・グラフと楽しくつきあうために …… 塩野広次 自分が主人公になって,数と向き合うときグラフを描くとき。 ・いま描いたらどうなる? たんぱく質は何からどれだけ摂取しているか …… 竹田かずき ・概数の哲学 …… 板倉聖宣 何のための〈数〉か。未来のために,本当に役立つ数は〈正しい数〉ではなく,実は〈概数=おおよその数〉なのです。 ・グラフ式年譜・年表のすすめ …… 板倉聖宣 ・グラフから社会が見える …… 長岡 清(編集:河野早苗) グラフは,少し描き方を変えるだけでも見え方が大きく変わる。グラフを描きながら,考え,予想し,確かめ,他の人に見せ,そしてさらに描く。グラフは社会の〈実験〉なんだ。 ・社会の見方とグラフの描き方 …… 長岡 清(編集:小川洋) ・グラフは問題意識に応じて好きに描け …… 板倉聖宣(グラフ発表:岸勇司 記録:北村秀夫) グラフは「何かを明らかにしたい」から始まる。 ・グラフの間違いから,グラフを学ぶ …… 板倉聖宣(編集:末丸千早) このグラフは間違ってます。……でも,転んでもシメタ! ・板倉聖宣のグラフ論とその系譜 …… 松崎重広 〈板倉さんのグラフ論〉の源流をたどり,そしてまた学ぶ。 ・二宮尊徳と数学 …… 板倉聖宣 民主的な社会にこそ,誰もが納得できるグラフが生まれる。 4章 おすすめグラフ・グラフ本 ・グラフのすごさが見えてきた! 『社会を見なおすメガネ』を読んで …… 竹田かずき ・数字の中に宝があった …… 松崎重広 ・「グラフで見る世界」分野別索引 …… 竹田かずき 『たのしい授業』裏表紙の「グラフで見る世界」の分野別索引。 |